第8章 想い…②
夜更け。
蝶屋敷の一室で、斗和としのぶは向かい合っていた。
「……藤の花の毒を、ずっと飲み続けているんですね」
しのぶの視線が、斗和の酒瓶へ落ちる。
「うん。酒で薄めて、少しずつ」
「身体への負担は?」
「あるよ。でも、まだ動ける」
斗和は笑った。
「それより、童磨をどうするかでしょ?」
しのぶの表情が僅かに曇る。
「……はい。あの鬼だけは、私がこの手で――」
「しのぶちゃん」
斗和が静かに遮った。
「あたしにやらせて」
「……え?」
「藤の毒なら、あたしの身体はもう普通じゃない。血にも毒が回ってる。童磨に食われることが前提なら……あたしのほうが使えるかもしれない」
「斗和さん、それは――」
「しのぶちゃんが何をしようとしてるか、分かってる」
斗和の声は穏やかだった。
「だから、その役目……あたしが代わる」
「駄目です」
しのぶが即座に言った。
「そんな方法を選べば、斗和さんは――」
「分かってるよ」
斗和は酒瓶を握り締めた。
「でも、実弥には言えない。玄弥にも言えない。あの二人に、あたしが死ぬかもしれないなんて……言えるわけないじゃん」
その時だった。
「――兄ちゃんはどうなるんですか!?」
襖が勢いよく開いた。
「玄弥!?」
立っていたのは玄弥だった。
「今の話……全部聞きました」
震える拳を握りしめる。
「兄ちゃんは……どうなるんですか!?」
「玄弥、落ち着いて」
「落ち着けるわけないでしょう!」
玄弥の目には涙が浮かんでいた。
「兄ちゃん、斗和さんのこと、あんなに大事にしてるのに……!」
「……」
「自分が死ぬかもしれないことも言わないで、斗和さんまでいなくなったら……兄ちゃんはどうなるんですか!」
斗和は何も言えなかった。
いつもなら笑って誤魔化せる。
けれど今だけは――玄弥の言葉が、胸の奥に突き刺さった。