第8章 想い…②
その夜。
実弥が自室へ戻ったあと、斗和は一人、縁側に残っていた。
「……時間が、ない」
ぽつりと呟く。
原作の知識がある斗和には分かっている。
これから先、玄弥を巡って起こる出来事も。
そして、自分が知らないうちに変えてしまった未来が、どこへ転ぶのかも。
だからこそ焦っていた。
――もっと強くならなきゃ。
けれど、それを実弥に話すことはできない。
「……ごめんね、実弥」
斗和は懐から小さな酒瓶を取り出した。
普通の酒ではない。
藤の花から抽出した毒を酒で薄めたもの。
ほんの少量ずつ。
身体が壊れないように調整しながら、毎日飲み続けている。
その積み重ねが、斗和の身体を変えた。
血に宿る異質な性質。
鬼の再生を鈍らせる、後天的な稀血。
けれど、その代償も少しずつ現れている。
「……まだ、大丈夫」
自分に言い聞かせるように呟き、酒を口に含む。
苦味が喉を焼く。
それでも斗和は顔をしかめず、いつもの酒と同じように飲み干した。
「……これくらいで、止まってられない」
焦りは胸の奥に押し込める。
実弥には言えない。
玄弥にも言えない。
自分の身体がどうなっているのかさえ、誰にも。
「時間がないなんて……言えるわけないじゃん」
斗和は笑う。
いつもの、姐御らしい笑顔で。
そして酒瓶をしまうと、何事もなかったように立ち上がった。
「……明日も、ちゃんと笑わなきゃね」
その背中だけが、ほんの少し震えていた。