第6章 『変数る』
翌週、
いつもの場所に先生と私はいた。
「先生」
「何だ?」
「質問があります」
「今度は何だ」
「先生って、彼女いるんですか?」
先生のペンが止まった。
「…………」
「…………」
私も止まった。
──何を聞いているんだ、私は。
「何故だ?」
「いや……」
「質問の意図は?」
「…………」
ない、と言いたい。
でも、
昨日から少しだけ、気になっていた。
「先生、女子に人気あるって聞いたから」
「それと僕に恋人がいることに何の関係がある?」
「可能性の話です!!」
「可能性?」
「もういいです。忘れてください」
「いない」
「え?」
先生は、
何でもないことのように本へ視線を戻した。
「現在、恋人はいない」
「…………」
「これで質問への回答になったか?」
「あ……はい」
「そうか」
会話が終わった。
それだけなのに。
「…………」
フルートを構える。
なぜだろう。
少し。
本当に、少しだけ、息がしやすくなった。
「…………」
「何だ?」
「何でもありません」
「今日はまだ何も言ってない」
「先に言っとこうと思って」
「意味が分からない」
そう言われて音を出す。
先生は本を読む。
いつもと同じ。
何も変わっていない。
ただ、この日。
私の演奏は最初から最後まで、
妙に調子がよかった。