第6章 『変数る』
「…………」
「何だ?」
「先生、人気者なんですね」
「そういう認識はないが」
「……そういうところですよ」
「どういうところだ?」
「何でもありません」
「またか」
先生が小さくため息をつく。
「それで?」
「え?」
「何か用事があったんじゃないのか」
「あ」
忘れかけていた。
「これ、演奏会のチラシです」
チラシを差し出す。
「もうできたのか」
「はい」
先生が受け取る。
日付、時間、会場、プログラム。
一つずつ、目を通していく。
「来られそうですか?」
「…………」
少し考えてから、先生は答えた。
「今のところ、その日は予定はない」
「本当ですか?」
「ああ」
「じゃあ──」
「ただし」
「何ですか」
「急な予定が入る可能性はある」
「分かってますよ」
それでも、嬉しかった。
「待ってますね」
「待つ必要はない」
「言い方!!」
「僕が来るかどうかで、演奏内容は変わらないだろう」
「そういう問題じゃないんです」
「では何だ?」
「友達が来てくれたら嬉しいんです」
「…………」
先生が黙る。
「何ですか」
「いや」
「来たくない?」
「そうは言ってない」
「じゃあ来てください」
「善処する」
「それ、逃げる人が使う言葉らしいですよ」
「誰が言った?」
「ゼミの友達です」
「…………」
ほんの僅かに、
先生の動きが止まった。
「この前の学生か」
「そうです」
「そうか」
「…………」
──まただ。
なんだろう、今の間。
「先生?」
「何だ?」
「いや」
気のせいか。
「何でもないです」
「本当にそれが多いな」
私は笑った。