第6章 『変数る』
「…………」
振り返ると湯川先生が、こちらを見ていた。
「何してる?」
「え?」
「さっきからそこにいるだろう」
女子学生たちの視線まで、一斉にこちらへ向く。
──最悪。
「いや、その」
反射的に、手に持っていた紙を後ろへ隠した。
「何でもないです」
「何でもない人間が、わざわざ経済学部からここまで来るのか?」
「…………」
正論だった。
言い返す言葉もなく、黙り込む。
「用事があるんだろう」
「まあ……」
「何だ?」
女子学生たちの視線が痛い。
「あとでいいです」
「何故?」
「先生、忙しそうだから」
「今の質問は終わった」
「…………」
女子学生たちが、一瞬だけ顔を見合わせた。
その視線が、私と先生の間を往復する。
「……あ、はい」
「じゃあ、今日はこの辺で大丈夫です」
「ありがとうございました」
「また分からなかったら聞きに来ます」
「ああ」
学生たちが離れていく。
すれ違いざまに、
何人かが、ちらりとこちらを見た。
「…………」
それだけなのに。
何故か、
あとで何か言われそうな気がした。