第6章 『変数る』
翌日。
「疲れた……」
「まだ資料決めただけだろ」
「もう発表したくない」
「早すぎ」
図書館から出ると、
隣から呆れた声が返ってくる。
「じゃあ次、金曜な」
「了解」
「逃げんなよ」
「善処します」
「それ逃げる奴の言い方」
見透かされていたらしい。
「バレた?」
「じゃーな」
「またね」
手を振って別れる。
振り返った、そのときだった。
「…………」
少し先に、湯川先生が立っていた。
「うわ!!」
「何だ?」
「先生!!」
「僕を見て驚く必要があるのか?」
「急にいるから!!」
「ここは大学だ」
「そうですけど」
先生は、さっきまで彼がいた方向へ一度視線を向けた。
「友人か?」
「え?」
「今の学生だ」
「はい。同じゼミです」
「そうか」
「…………」
先生はそれだけだった。
「何ですか?」
「何が?」
「いや、聞いたから」
「知り合いなのかと思っただけだ」
「そう、ですか」
「ああ」
先生が歩き出す。
私もなんとなく、その隣を歩いた。
「昨日も一緒にいたな」
「…………」
思わず足が止まりかける。
「先生」
「何だ?」
「見てたんですか?」
「偶然通った」
「また偶然」
「大学構内で行動範囲が重なれば、遭遇することは不自然ではない」
「まあ、そうですけど」
「ゼミの課題か?」
「そうです」
「何の?」
「企業分析です」
「なるほど」
「…………」
なんだろう。
今日は妙に質問が多い。
「先生」
「何だ?」
「興味あります?」
「企業分析にか」
「いや、そこじゃなくて」
「では何だ?」
「…………」
口を開きかけて、やめた。
「何でもないです」
「君は最近それが多いな」
「先生に説明しても分かんなそうだから」
「説明されなければ、分かるものも分からない」
「じゃあ考えてください」
「またそれか」
その言い方がおかしくて、思わず笑った。
隣を歩く先生は、
腑に落ちないとでも言いたげに眉を寄せていた。