第5章 『識別る』
「ち、違う!!」
「そんな全力で否定しなくても」
「違うから!!」
「でも、あの湯川先生がわざわざ練習見に来て、終わるまで残ってたんでしょ?」
「通りかかったんだって」
「はいはい、“たまたま”ね」
「何、その言い方」
「で、二人で何話してたの?」
「普通の話」
「普通って?」
「演奏のこととか」
「…………」
「何」
「やっぱりおかしいって」
「何が?」
「湯川先生、楽器やらないんでしょ?」
「やらないよ」
「なのに、あんたの演奏の話するの?」
「まあ……」
「しかも」
彼女が私を指差した。
「あんたの音、オケの中でも分かったんでしょ?」
「…………なんで知ってるの?」
「この前、外で話してるのちょっと聞こえた」
「嘘」
「全部じゃないよ。でも“星宮君の音”って言ってたのは聞いた」
「…………」
まずい。
あのときの言葉を思い出す。
『興味深かった』
『星宮君の音だ』
「……顔赤くない?」
「赤くない!!」
「赤いって!!」
「暑いだけ!!」
「今日そんな暑くないよ?」
「うるさい!!」
彼女が楽しそうに笑う。