第5章 『識別る』
「じゃあ」
少しだけ、
変な質問をしてみたくなった。
「目隠ししてても分かる?」
「何が?」
「私が吹いてるって」
「条件による」
「またそういう」
「他の奏者の演奏を事前に聞いていれば精度は上がる」
「じゃあ」
私は笑った。
「私と知らないフルート奏者が二人で吹いてたら?」
「曲は同じか?」
「同じ」
「楽器は?」
「同じメーカー、同じモデル」
「演奏位置は?」
「同じくらい」
「先生、本気で検証しようとしてません?」
「条件を揃えなければ答えられない」
「じゃあ全部同じでいいです」
「なら」
先生は少し考えた。
「恐らく分かる」
「……恐らく?」
「科学に絶対はない」
「逃げた」
「逃げてない」
また笑う。
でも、胸の奥に、
何か小さなものが残った。
──分かる。
何十人もの音の中でも。
先生には、私の音が分かる。
「…………」
「何だ?」
「いえ」
なんとなく、顔が熱い気がした。
「先生」
「何だ?」
「それ、他の人には言わない方がいいですよ」
「何故?」
「勘違いされます」
「何を?」
「…………」
この人、本当に分かっていない。
「もういいです」
「説明しろ」
「嫌です」
「何故?」
「自分で考えてください」
「非効率的だ」
「たまには考えてください」
私は先に歩き出した。
「星宮君」
「部室戻ります!!」
「待て」
振り返らない。
なんとなく。
今、顔を見られたくなかった。