第5章 『識別る』
「私?」
「ああ」
「聞こえたんですか?」
「当然だ」
「いや、当然じゃないですよ」
思わず先生へ一歩近づく。
「今日、フルート私だけじゃないですからね?」
「分かっている」
「他にも楽器いっぱいあったし」
「ああ」
「それで分かったんですか?」
「分かった」
即答だった。
「…………どうやって?」
「音の特徴だ」
先生は何でもないことのように答えた。
「星宮君は音の立ち上がりに特徴がある。特に中音域から高音域へ移行するとき、息の圧力が僅かに先行する。それから──」
「待って待って」
「何だ?」
「そんなので分かるんですか?」
「識別する要素としては十分だ」
「…………」
私は先生を見る。
先生は平然としている。
何十人もいた。
フルートだって、私一人じゃなかった。
それなのに、この人には、
私の音が分かった。