第5章 『識別る』
練習終了後、外へ出る。
流石に、もういないだろうと思っていた。
でも、
「先生」
──いた。
近くの壁にもたれ、何かの資料を読んでいる。
「何してるんですか?」
「読めば分かるだろう」
「そうじゃなくて」
「何だ?」
「ここで」
「通りかかった」
「…………」
「何だ、その顔は」
「最近、先生の“たまたま”を信用できなくなってきました」
「事実だ」
「はいはい」
先生が資料を閉じる。
「部活だったのか」
「そうですよ」
「オーケストラ部だとは聞いていたが、実際に合奏を聞くのは初めてだな」
「どうでした?」
「どう、とは?」
「感想」
「感想……」
先生が考える。
こういう質問が苦手なのは、もう分かっている。
「音圧が大きい」
「…………」
「周波数帯域も広い」
「先生」
「何だ?」
「もう少し人間らしい感想ないんですか」
「人間らしい感想とは何だ?」
「綺麗だったとか、迫力があったとか」
「それなら最初からそう聞けばいい」
「めんどくさい!!」
思わず笑う。
先生の口元も、ほんの僅かに緩んだ。
「でも」
先生が言う。
「興味深かった」
「何がです?」
「星宮君の音だ」
「…………」
笑いが止まった。