第5章 『識別る』
──同じ頃。
湯川は大学本部から研究室へ戻る途中だった。
「…………」
足が止まる。
どこかから聞こえる、オーケストラの音。
大学の部活動だろう。
特別、珍しいことではない。
そのまま歩こうとした。
しかし、
「…………」
再び足が止まった。
フルート。
複数の楽器が同時に鳴っている。
弦楽器、木管、金管。
それぞれの音が複雑に重なっている。
その中に、
聞き覚えのある音があった。
「……まさか」
湯川は音のする方向を見る。
オーケストラの中には、
当然複数のフルート奏者がいる。
いつものように、
一人の演奏だけを聞いているわけではない。
条件はまるで違う。
にもかかわらず。
「…………」
もう一度、耳を澄ます。
数秒。
湯川は音のする方へ歩き出した。