第4章 『交差る』
一時間ほど経つと、雨は弱くなった。
「そろそろ行きます」
ケースを持つ。
「雨は?」
「これくらいなら大丈夫です」
「そうか」
「コーヒー、ありがとうございました」
「ああ」
扉へと向かう。
「あ」
思い出して、振り返った。
「先生」
「何だ?」
「今日の練習、ほとんどできなかった」
「雨だから仕方ないだろう」
「なので——」
「木曜日、長めに吹きます」
「…………」
先生が私を見る。
「別に僕に報告する必要はない」
「前も言われました」
「なら、なぜ言う?」
「なんとなく」
「またそれか」
「人間には“なんとなく”があるんです」
「便利な言葉だな」
「先生の“聞こえていただけ”と同じです」
「…………」
湯川先生が黙った。
——勝った。
ほんの少しだけ、そう思った。
「じゃあ、また」
「ああ」
私は笑って、第十三研究室を出た。