• テキストサイズ

【G@lileo】音色の方程式

第4章 『交差る』




 扉が閉まり、研究室が静かになった。

 湯川は机へと戻る。
 先ほどまで星宮君が座っていた椅子が、視界に入った。


 「…………」


 当然、もう誰もいない。
 湯川は論文を開いた。

 一行、
 二行、
 三行。

 手が止まる。

 窓を見ると、雨はほとんど止んでいた。
 いつもの場所には、誰もいない。

 当然だ。
 今日はもう練習しないと言っていた。

 次は木曜日、長めに吹く。


 「…………」


 必要のない情報だ。
 彼女がいつ練習するかなど、本来なら自分の研究とは何の関係もない。

 にもかかわらず。
 また一つ、予定を知った。


 「…………」


 湯川は視線を戻す。

 机の上には、二つのカップが残っていた。
 自分のブラックコーヒー。
 そして、砂糖を二つ入れた、星宮君のためのコーヒー。

 彼女の方は、ほとんど飲み終えている。
 湯川は自分のカップを手に取って一口飲んだ。


 「…………」


 いつもの味だった。
 苦い、それでいい。
 視線だけが、もう一つのカップへ向いた。


 『——私、ブラック飲めないです』


 砂糖二つ。

 そんな情報まで知る必要はない。
 研究には何の役にも立たない。
 次に使う予定もない。

 それなのに、何故か、
 記憶に残った。


 「……砂糖二つか」


 誰に聞かせるでもなく呟く。

 そして、数分後。


 湯川は僅かに眉を寄せた。


 「何を覚えてるんだ、僕は」


 論文へ視線を戻す。
 窓の外には、もう雨音すらなかった。



/ 72ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp