第4章 『交差る』
「先生」
「何だ?」
「物理って楽しいですか?」
先生がこちらを見る。
「楽しい、という表現が適切かは分からないが」
少し考えて、
「興味深いとは思う」
「……先生らしい」
「星宮君は?」
「私?」
「フルートだ」
「楽しいですよ」
「即答だな」
「先生が物理を続けてるのと、多分同じです」
「同じ?」
「やめる理由がないから」
言ってから、自分で少し驚いた。
以前ならそんなふうには、言えなかった気がする。
「……先生が言ったんですよ」
「僕が?」
「一度やめて戻ってきたなら、吹かないっていう仮説は一回棄却されてるって」
「ああ」
「だから」
ケースを撫でる。
「とりあえず今は、吹いてていいかなって」
先生は、しばらく何も言わなかった。
やがて、
「そうか」
それだけ言った。
でもその声は、
いつもより少しだけ、柔らかかった気がした。