第4章 『交差る』
「…………」
ふと、窓が目に入った。
「先生」
「何だ?」
「あの窓ですか?」
「何が?」
「私の音が聞こえるっていう」
「ああ」
先生が振り返る。
「そうだ」
私は窓へ近づいた。
雨で景色が霞んでいる。
いつもの練習場所は——。
「あ」
見えた。
でも遠い。
けれど、確かに見える。
「……結構距離ありますよね」
「そうだな」
「本当にここまで聞こえるんだ」
「フルートは比較的高い周波数成分を含む。周囲の環境にもよるが、星宮君が思っているより音は届く」
「へえ……」
窓から外を見る。
いつも私が立っている場所、
そして、先生がいる場所。
今まで離れていた二つの場所が、
初めて、どこかで交わったような気がした。
「先生」
「何だ?」
「ここで、いつも聞いてたんですね」
「聞こうとしていたわけじゃない」
「はいはい」
「その返事は何だ」
「もう分かってますから」
聞こえていただけ。
偶然。
たまたま。
この人はいつもそう言う。
「でも」
私は窓の外を見たまま言った。
「なんか変な感じ」
「何がだ」
「いつも先生がどこにいるかなんて、考えたことなかったから」
「…………」
「私があそこで吹いてるとき、先生はここにいるんだなって」
言葉にすると余計に、不思議な感じがした。
私には見えていなかった場所で、
この人はずっと、私の音を聞いていた。
「物理をやりながら」
「“物理をやる”という表現は随分曖昧だな」
「そこ突っ込みます?」
「気になっただけだ」
「先生らしい」
思わず笑った。