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【G@lileo】音色の方程式

第3章 『誤差る』




 思わず先生を見る。


 「…………なんで?」


 湯川先生が黙った。
 ほんの一瞬、妙な間があった。


 「三回生なら、珍しい悩みじゃない」

 「……まあ、そうですけど」


 私は気づかなかった。
 彼が僅かに視線を逸らしたことに。


 「先生は」

 「何だ?」

 「学生の頃、将来どうしようとか悩まなかったんですか?」

 「ない」

 「即答」

 「物理を続ける以外の選択肢を、真剣に検討したことがない」

 「……いいなあ」

 「何が?」

 「そういうの」


 私はベンチへ腰を下ろした。


 「これがやりたい、っていうのが最初からある人」

 「星宮君にはないのか?」

 「分かりません」


 フルートを見る。


 「好きなものならありますけど」

 「それがこれか」

 「はい」

 「なら、それでいいんじゃないか?」

 「仕事にはできませんよ」

 「なぜ仕事にする必要がある?」


 顔を上げる。


 「以前も言ったが、星宮君は二つの問題を混同している」

 「二つ?」

 「将来何を職業にするかという問題と、フルートを続けるかという問題だ」


 湯川先生は淡々と言った。


 「君は前者の答えが出ていないことを理由に、後者まで疑っている」

 「…………」

 「それらに因果関係があるとは限らない」


 ──この人は、本当に。

 欲しい言葉をくれるわけではない。
 大丈夫だとも、きっと見つかるとも、頑張れとも言わない。

 ただ、
 絡まった糸を一本ずつ分けるように、問題を切り離していく。


 「……先生って」

 「何だ?」

 「たまに、いいこと言いますよね」

 「たまに?」

 「はい」

 「それ以外は?」

 「変なこと言ってます」

 「君の主観だろう」

 「人間の評価なんて、大体主観です」

 「随分乱暴な議論だな」


 いかにも先生らしい返しに、思わず笑みがこぼれた。

 先生は納得していない顔をしていた。


 それでも、
 少しだけ、気持ちが軽くなった。





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