第3章 『誤差る』
──数秒、
「……覚えてたんですか?」
「何を?」
「私が来なかったこと」
「星宮君の練習には一定の周期性がある」
即答だった。
「火曜日と木曜日が多い。そこから外れただけだ」
「でも、来なかったって気づいたんですよね?」
「音がしなければ分かる」
「…………」
私はフルートを抱えたまま、先生を見る。
「何だ?」
「いや……」
──ちょっとだけ。
本当に、ちょっとだけ。
嬉しいと思ってしまった。
「先週は部活のミーティングだったんです」
「そうか」
「新入生も入ってきたし、パート決めとか色々あって」
「なるほど」
「……心配しました?」
「なぜ僕が?」
「ですよね」
分かっていた。
分かっていたけれど、
あまりに即答されると、少し腹が立つ。
「じゃあ聞かないでくださいよ」
「事実を確認しただけだ」
「先生って、本当にそういうところありますよね」
「どういうところだ?」
「何でもありません」
私はぷい、と譜面へ向き直った。
先生が怪訝そうな顔をする。
その顔が少し面白くて結局、笑ってしまった。
「……何なんだ」
「先生には分かりませんよ」
「説明されなければ当然分からない」
「説明しません」
「非論理的だな」
「人間ってそんなもんです」
フルートを構えて、息を吸う。
そして、音を出す。
──数分後。
「今日は調子が悪いな」
音を止めた。
「…………」
「何ですか」
「昨日までと比較して息が浅い。音の立ち上がりも不安定だ」
「聞こえてるだけじゃなかったんですか?」
「聞こえているから分かる」
「……便利な言葉ですね、それ」
私は楽器を下した。
「ちょっと考え事してただけです」
「就職か?」
「え?」