第3章 『誤差る』
──火曜日。
午後二時三十二分。
「こんにちは」
いつもの場所へ行くと、先客がいた。
湯川先生だった。
「…………」
私は足を止める。
先生はベンチに座り、何かの本を読んでいた。
「あれ」
「何だ?」
「先生、今日早くないですか?」
「早い?」
「いつも私が練習してる途中で来るから」
「偶然だ」
「へえ」
「何だ、その顔は」
「何でもないです」
私は笑いながらケースを置いた。
最近、この人との会話の仕方が少し分かってきた気がする。
「今日は何を吹くんだ?」
「まだ決めてません」
「決めずに来ることもあるのか?」
「ありますよ」
「非効率的だな」
「趣味なんだからいいんです」
「部活動なら、趣味とは言い切れないんじゃないか?」
「じゃあ、半分趣味です」
フルートを組み立てる。
先生は本へ視線を戻した。
いつも通り、私は吹こうとして楽器を構える。
「そういえば」
先生が言った。
「はい?」
「先週の木曜日は来なかったな」
私は止まった。
「…………」
湯川先生も止まった。