第3章 『誤差る』
「昨日もさ」
「うん?」
「インターン調べようと思ってたんだけど」
「うん」
「部活の方で話し込んじゃって。結局何もできなかった」
「……あんた本当にオケ好きだね」
「そうなのかな」
「そうでしょ。二回生から入ったくせに、一番入り浸ってるじゃん」
「一年遅れてるから必死なの」
「高校までやってたんでしょ?」
「それでも一年吹いてなかったから」
「でも、楽しい?」
その質問に、私は少しだけ黙った。
「……楽しいよ、すごく」
答える。
そこだけは迷わなかった。
「じゃあいいじゃん」
「よくないよ」
「なんで?」
「それで仕事になるわけじゃないし」
「別に仕事にしなくてもいいでしょ」
「…………」
──数日前、似たようなことを言った人がいた。
フルートを吹くことと、将来を考えること、
その二つは両立しないのか、と。
「……最近さ」
「ん?」
「変な先生と知り合ったんだよね」
「先生?」
「理工学部の」
「へえ。何の先生?」
「物理学科の准教授。湯川先生っていう──」
「え!?」
突然、友人が大声を上げた。
「ちょ、声大きい」
「湯川先生!?」
「うん」
「湯川学先生!?」
「……多分」
「多分って何!? そこ間違える!?」
友人が、信じられないものを見るような顔で私を見た。
「何。そんな有名な人なの?」
「有名とかいうレベルじゃないでしょ!! あんたこの大学何年通ってんの!?」
「三年?」
「聞いてない!!」
「私、経済学部だし」
「経済でも知ってるって!! 理工学部の湯川先生でしょ!? 背高くて、白衣で、めちゃくちゃ顔いい人!!」
「……その説明なら合ってる」
「ほら!!」
友人が勢いよく私を指差した。