第2章 『観測る』
午後四時。
そろそろ部室へ戻ろうと、私は楽器を片付け始めた。
「帰るのか?」
「このあと部活なんです」
「そうか」
湯川先生も書類をまとめ、立ち上がる。
「先生も研究室に戻るんですか?」
「ああ」
そこで、ふと、気になった。
「先生」
「何だ?」
「いつもこの時間、外に来るんですか?」
「いや」
「じゃあ今日は?」
「…………」
先生の動きが止まった。
ほんのわずかな間。
「気分転換だ」
「……へえ」
「何だ?」
「何でもないです」
ケースを肩に掛ける。
そして──、
「じゃあ、また」
口にしてから、少しだけ変な感じがした。
──また。
自然に出た言葉だった。
次に会う約束なんてしていない。
いつ会うのかも知らない。
それでも私は、また会うような気がしていた。
先生は特に気に留めた様子もなく。
「ああ」
それだけを返した。
私はオーケストラ部の練習へ向かった。