• テキストサイズ

【G@lileo】音色の方程式

第2章 『観測る』




 それから数十分、湯川先生は帰らなかった。

 ずっと隣にいたわけではない。

 少し離れたベンチに座り、持っていた書類を読み始めただけだ。


 私は練習する、先生は論文らしきものを読む。

 時折、ページをめくる音がする。


 それだけ──、会話はない。
 妙な時間だった。

 普通なら、誰かに聞かれながら個人練習をするなんて落ち着かない。

 ましてや相手は教授だ。

 それなのに、

 何故か嫌ではなかった。


 しばらくして、一曲を最後まで吹き終える。


 「…………」


 私はフルートを下した。

 そして、ゆっくり息を吐く。


 「さっきより良くなった」


 不意に声がした。


 「え?」


 顔を向ける。

 湯川先生は、書類から顔を上げてすらいなかった。


 「最初よりテンポの揺れが少ない」

 「……聞いてたんですか?」

 「聞こえていただけだ」

 「またそれ」

 「事実だ」


 思わず笑ってしまう。


 「じゃあ、そういうことにしておきます」


 返事はなかった。
 けれど──、


 ページをめくる音もしばらく聞こえなかったことに、
 その時の私は気づかなかった。

/ 81ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp