第2章 『観測る』
「でも、四回って……」
「聞こえていたからな」
「またですか」
「君は、自分が思っている以上に音量がある」
「……やっぱり場所、変えたほうがいいですか?」
「何故?」
「だって、研究室まで音が聞こえるんですよね?」
「聞こえることと、邪魔になることは同義じゃない」
「…………」
まただ。
先生は、いつもそういう言い方をする。
邪魔じゃないなら、邪魔じゃないと言えばいいのに。
「それより──」
湯川先生の視線が譜面台へと向いた。
「初めて聞く曲だな」
「分かるんですか?」
「少なくともここ数週間、星宮君が演奏していた曲ではない」
一瞬、返事が遅れた。
「…………」
「何だ?」
「いや……」
私は思わず苦笑した。
──星宮君
名前を覚えていたことにも少し驚いたけれど、
それより──、
「先生って思ったより私の練習聞いてますよね」
湯川先生が黙った。
ほんの僅かな間──、
珍しい、いつもならすぐに何か返ってくるのに。
「研究室まで聞こえると言っただろう」
「…………」
「耳に入るだけだ」
「はいはい」
「何だ、その返事は」
「別に?」
少しだけ、面白くなってきた。
最初はただ、変な人だと思っていた。
今も変な人だとは思っているけど、でも、
少なくとも、嫌な人ではないらしい。