第2章 『観測る』
火曜日の昼下がり、
いつもの場所でケースを開く。
フルートを組み立て、譜面台を立てる。
今日は部活で配られた新しい譜面を持ってきていた。
まだ合奏ではほとんど吹いていない、
だからこそ、今のうちに個人で練習しておきたかった。
「……よし」
フルートを構えて息を入れる。
最初はゆっくり、指を確認しながら一つずつ音を繋いでいく。
難しい──。
というより、嫌なところに指がある。
フルートを吹く人間ならたぶん分かる。
作曲者に悪意があるんじゃないかと思うような指の並びが、たまに存在するのだ。
「……そこかぁ」
案の定引っかかった。
少し戻って、もう一度吹きなおす。
「……」
失敗して、もう一度吹きなおす。
けれども同じように引っかかってしまう。
「……いや、待って」
楽器をおろして、指だけを動かして譜面を見ながら確認する。
頭の中で音を想像しながらもう一度──、
今度は通った。
「よし」
そのまま続きを吹く。
数小節進んだところで──、
「今ので四回だ」
「っ!?」
盛大に音を外した。
勢いよく後ろを振り返る。
「湯川先生!!」
数メートル離れたところに、白衣姿の湯川先生が立っていた。
──いつからいたんだ、この人。
「今のは五回目には含めないほうがいいだろうな」
「先生のせいですよ!!」
「僕は何もしていない」
「急に話しかけたじゃないですか!!」
「演奏は止まっていた」
「そういう問題じゃなくて……!!」
言い返しかけて、やめた。
この人には多分、何を言っても無駄だ。
私は大きく息を吐いた。
「……先生」
「何だ?」
「もしかして、今日も数えてたんですか?」
「たまたま通りかかっただけだ」
「本当ですか?」
「僕が嘘をつく必要があるのか」
「…………」
──ない。
というより、この人は嘘をつくときですら理屈を並べそうだ。