第5章 5
「あんまり、管理人さんとうまくいってないんですか」
「……ええ。引っ越してきた当初から、ちょうど移って来たあちらと揉めたんです」
彼はトラブルをあなたに説明した。
彼の真下がちょうど一家の住居で、騒音がひどかったのだそうだ。
家族なのだから、それは仕方がないと思った。だが、彼のバルコニーの反対側の真下の庭に、管理人一家が突然遊具を並べたことが始まりだったという。
「今ではもう立派な公園ですよ。あまりにも規模が大きくなってきて、苦情を言ったんです。でも彼らはまったく聞き入れず困りました」
あなたはさすがに彼に同情をした。
彼らは家を買っていて、法律違反でもないため、公園がどんどん大きくなってもどうにもできなかったのだという。
「それは嫌ですよ⋯⋯エナードさん、よくこの2年間頑張りましたね」
あなたが心配して、もっとなんとかならなかったのかと思いやって見上げると、彼は一瞬だけ瞳を揺らした。
「分かってもらえるだけで、ありがたいです」
そうぽつりともらす。
そして彼は吹っ切れたように顔を上げた。
「でも、もういいんです。ここを買わなくて本当によかったですよ。引っ越せば済みますから」
「えっ? エナードさん、引っ越しちゃうんですかっ?」
あなたが悲し気に問うと、彼は驚いたように動きを止めた。
「いえ……まだ時期は決めてませんが」
「……そっか」
ほっとして気が緩むと、エナードはまだあなたのことが気になっているようだった。
もうすっかり安心して、気分が温かくなっていたあなたは、彼にこのことも教えた。
「そういえば、お隣のおばあさん、ホームに行くことになったらしいです」
「ああ……そうだったんですか。……じゃあテレビの音、しなくなっちゃいますね」
彼らしい現実的な一言に、あなたは少し反応に困って笑う。
「僕が、大きな音を出しましょうか」
「ええっ。いや、それあなたが嫌でしょう?」
「嫌ですよ。うるさいのは嫌いなんです」
「ほら……」
あなたが突っ込むと、彼はこんなことを言った。
「じゃあこの話は置いておきましょう。……今度の週末、映画、見に行きますから」
一応約束していたことを改めて伝えられ、あなたは表情をふたたび緩めていった。