第5章 5
その日あなたは、一階にある管理人女性の玄関先で話をしていた。
「もうこのアパートにも慣れました? さんきちんと取り組んでくれて助かります。何か困ったことあれば言ってくださいね」
「ありがとうございます」
「そういえば、あなたの隣のおばあさんなんだけど。ご家族と話し合って、もうすぐホームに入るんですって」
「えっそうなんですか。……そっか、結構お年でしたもんね」
「そうなのよね。でもハキハキしてらしたし、そちらでもお元気でいてほしいわ」
彼女と頷き合っていると、地下の階段から金髪のすらっとした男性が現れた。
ジャケットを着こなしたエナードだ。
彼はあなたを見て「こんにちは」と言った。
あなたも笑顔で返すと、彼の視線は管理人女性に移り、会釈して通り過ぎようとした。
すると女性は彼に声をかけた。
「あらエナードさ~ん。最近草むしりやってくれてるみたいですねえ。本当に助かります。あれだけお願いしても「契約にない」って言い張ってたのに」
エナードは足を止め、無表情で彼女に振り向く。
「実際契約にないですから」
「あら、でもそれってあなたのお部屋の大家さんとの契約よね。このアパート全体の管理を今しているのは私達夫婦なので。ルールはこれからも守ってもらえると助かります~」
優しい声音で笑顔を向けた女性に、エナードはぴくりと眉を動かした。
なんだかよくない雰囲気だとあなたが焦っていると、管理人女性はこちらに微笑んだ。
「でもさすがよ、さん。あなたが言ってくれたおかげでこの方も聞いてくれたんだから」
「彼女は関係ないでしょう」
「そうなんですか? 仲良く草むしりしてたじゃないの。いいことですよ全然~そんなに親しくなったのねえ」
野次馬的にからかわれると、あなたは苦笑を浮かべる。
この女性は基本的にいい人だけれど、わりとお喋りなのだ。
「親しくはありません。誤解の起こるようなことをこの場で言わないでくれますか」
しかし、エナードが毅然とそう告げて、あなたはグサっと胸に何かが突き刺さる。
そして思わず、階段に乗り上げている彼を恨めし気に見た。