• テキストサイズ

キセキ

第13章 天使ですよ


何もうまくいかなかった人生
 誰にも顧みられない小さい人間
妻と思った人間にも裏切られ
 子どもにも必要とされない
一人で過ごした時間が澱のように胸に溜まっていた
言葉が口をついて出てくる
 吐き出すように
  吐き出すように

彼女はじっと聞いていた
 そして最後に俯いた

話すことがなくなって、僕も俯いた
目の前で最後に頼んだコーヒーが冷めていった

次の日も、彼女は来た
 そして、僕に仕事を探しに行こうと言った
 なにか、資格を取ろうと言った

何かを目指して、歩こうとするのは久しぶりで
 僕はそのやり方をすっかり忘れていた

 上手くいかないなんてことないから!

彼女は僕の手を引いた

 簿記とかいいんじゃない?
 行政書士とか?

いやいや・・・勝手に決めるな

と言いながら、
彼女の持ってきたハローワークの資格取得支援の一覧に目を落とす
僕が遠慮がちに、事務系の資格を選ぶと
彼女は一段階高い目標を示す

結局、なんだかんだと話す中で、
 なんとなく目標が決められてしまった

彼女は昼間から毎日僕の勉強と、職探しに付き合ってくれた
誰かが、こんな風に自分のために何かをしてくれること
 それは、懐かしいような
 初めてのような
 そんな不思議な感覚だった

夏が終わり、秋が近づいてきた
 夕暮れが涼しくなり始めた
ついに、僕の再就職が決まった

 良かったね!

彼女は喜んでくれた

 これで、悩みは少し解消されたわけだ
 私も天使冥利に尽きるよ

彼女は微笑んだ
僕はお礼を言った
 彼女は、天使だから、
 これで、天の国に帰るのだろう
なんで彼女が僕のところに来たのか
 わからないけれど、
きっと、もう、会うこともないだろう

僕はもう一度お礼を言った

そして、アパートに帰ろうと踵を返す
何故か、胸が痛んだ

分かってるんだよ・・・

でも、分かっていない

なんだって言うんだろう?
やっぱり気になった僕は
振り返った
/ 37ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp