第1章 第一話
こんなつもりではなかった。
練習を終えて帰宅した鬼道は、自室に戻るなり深くため息をついた。いつになく乱雑に鞄を置きながら今日の出来事を思い返す。帝国学園に入学してから、鬼道にとって最も波乱のあった一日だった。彼女と話をすることになるだなんて思いもしなかった。
練習を見ていくといい、と鬼道が期待を込めて掛けた言葉を彼女は受け入れてくれた。いや、断る理由は無かったのかもしれない。彼女は自身の練習のためにサッカーを見たいと言っていたのだから。
それを利用して彼女と一緒にいる時間を引き延ばそうとした。ほんの少しだけ、そう言い訳をした。実際、そのつもりだった。
だが心からのの笑顔と嬉しそうな声に、鬼道は舞い上がる心を抑えることができなかったのだ。境界を越えてはいけないと分かっていながら彼女に秘密を明け渡してしまった。
自身の行いを顧みると呆れてものが言えなくなる。鬼道は額に手を当てて頭を振った。冷静になればなるほど今日の自分の行動は浅慮だった。
彼は自室を振り返る。ほの暗い間接照明の明かりにゆらゆら揺れ、部屋の光景が鬼道の瞳に映る。整然と整えられた広々とした部屋。中学生の身には余る家具や豪奢な調度品が飾られ、必要な知識を得るための本が本棚には詰め込まれている。
これが彼に与えられた期待だ。誂えられたものに相応しい成果を残すことが鬼道有人の役目。鬼道財閥の跡取りとして、帝国学園サッカー部のキャプテンとして。……そして妹を引き取るために兄として。鬼道が歩く道にの存在は必要なものではない。
分かっていながら近づいてしまった。あまつさえ自分の領域に招き入れ、秘密を明け渡してしまった。制御も利かず感情に乗せられるまま。……今日の己の行いは誤った判断だとは理解している。そのくせ、後悔はこれっぽっちも無かった。
「……」