第1章 第一話
どうしてこんな展開になったのか自分でも分からない。
鬼道は口を噤み、足早に廊下を進んで目的地へ急ぐ。ちらと後方を確認すれば、美しい黒髪の少女が楚々と自分の後に従っている。自分がそうしろと言ったくせに、彼女がいる事実が夢のようで鬼道は慌てて前を向いた。
あの日初めて鬼道はに出会い、そして彼女を知りたいと思うようになった。
サッカー部の方が陸上部よりも練習が長いため、彼女の走りを見られる機会はほとんどなかった。しかしあの日の衝撃と記憶は鬼道の心を惹きつけるには十分すぎた。彼は、次第にに惹かれていった。
一見、勉学は不得意で愛想も悪い。未だに友達も作れないを生徒たちは変わり者だと揶揄した。
しかし走っているときに見せた彼女の輝きは真のものだ。その姿こそが本来の彼女だと強く信じ、鬼道はその誰も触れることのできない、ヴェールに包まれた彼女に触れたいと思った。
瞼の奥に焼き付いて離れない自由な躍動。その持ち主である彼女と話をして、見つめ合って触れ合えたら。世界がどんなに鮮やかに見えることだろう。彼女を知ってから幾度となく鬼道は夢想した。
そしてそれが思わぬ形で叶ったのだ。
本当に偶然だった。練習前にひとり、自主練をしていてボールを廊下まで飛ばしてしまった。ボールを追いかけたその先に……、思いにもよらなかった彼女の姿があったのだ。
その姿を見たとき、鬼道は暗く閉塞感のある廊下の壁に光が差した錯覚を見た。転々と地を滑るボールの音が反響する中、彼女の靴音がやんでその場に足を止める。
彼女は緩く転がったボールをトラップし、不思議そうな顔をしてそのボールに手を伸ばす。はらりと彼女の肩から漆黒の髪が一房落ちた。ボールに触れようとする彼女の、細くしなやかな指の動きを辿ってその横顔を覗き見た。
興味深く、彼女はサッカーボールを見つめている。鬼道はその視線が向けられるものを密かに羨む気持ちを抱きながら彼女の動向を見守った。スカートの裾を抑えながら腰をかがめ、たおやかな動きでは静々とボールを拾い上げる。