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鬼道有人の初恋

第3章 第三話


 

 重く閉ざしていた鉄の扉は満を持して開いた。

 あの日のことは鮮明に記憶している。扉の前には鬼道が待ちわびた少女が酷く恐縮した様子で立っていた。彼女は不安げに、今にも押しつぶされてしまいそうな表情で部屋に足を踏み入れた。

 ベンチに腰を下ろさせてもなお、小さく丸めてしまう背中を見つめる。彼女が俯くと艶めく黒髪がその表情を完璧に覆い隠してしまう。鬼道には彼女の心を覗き見ることはできない。

 もどかしい。言葉にできない胸苦しさが鬼道の中で蠢いた。

 艶めく絹のような髪を整えて顔を見たい。本当の意味で彼女に触れることができたなら。そう思いつつ、鬼道は中身のない言葉を吐き、とのまだ遠い心の距離に指を泳がせることしかできなかった。

 これは現在の、鬼道有人にとって最大の悩みの種であった。

 彼女は鬼道を前にすると目に見えて萎縮してしまうのだ。鬼道が望む彼女の姿は、初めて出会った日に見た自由でありのままの姿だ。の色々な表情が見たくて時間を作っているのに、膠着状態のまま進展のない日々が続いた。

 しかしながら……、それは鬼道のせい、というよりも彼女の心がまだ閉ざされていることが原因と言えた。

 彼女は見るものすべてに……。いいや、閉塞的な空気、絶対的な序列制度なども含め、帝国学園のすべてに恐れを抱いているようだった。

 これまで見てきた彼女の振る舞いを思えばおかしいことではなかった。いきなり望んでいたような、理想のコミュニケーションが図れると思っていたわけではない。それを理解していながら、気の利いた事ひとつ言えない自分を鬼道は歯がゆく思っていた。

 ――――彼女の心に、触れてみたい。

 もっと時間を重ねれば、彼女は心を開いてくれるだろうか。だが、やっとの思いで捻出したわずかな時間だけでどうやってこの距離を詰めればいい? 

 鬼道自身は彼女の顔を見ていられれば、同じ時間を過ごすことができていればそれだけでもいいと考えていた。

 だが、張り詰めた緊張の中に置かされる彼女はどうか。鬼道との逢瀬を負担に感じているかもしれない。彼女の時間を奪ってまで得ているこの機会が、現状にメリットを与えているとは到底思えなかった。
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