第2章 第二話
こんなふうに問いかけて彼女が俺を拒めるはずはない。俺のこの問いで彼女は内心がどうであれ屈従するしか選択肢はなくなる。分かっていながら強引な言葉を口にした。
だがお前を手繰り寄せるためならば、手段は選びたくない。もっとお前を知りたい。知るためには、手をこまねいているだけでは何も変わらない。
明らかに鬼道の言葉には困惑を隠しきれていない様子であった。彼女の口元に当てられた指先が覚束なく前髪に触れて指先を体側に下ろす。鬼道は何も言わずにの言葉を待っていた。
どれくらい続いたか分からない沈黙の果てに彼女の瞳が鬼道を見つめる。
彼女の眼差しはゴーグル越しの眼差しの真意を読み解こうとしているようだった。上目遣いに鬼道を見ては静かに呼吸を繰り返す。彼女に見つめられると鬼道の胸にもざわめきが走る。
夜闇のような誰にも塗りつぶせない色をした瞳は、凛然とした強い光を放って鬼道の心を鷲掴みにする。視界の端で彼女の細い指がスカートの裾を握る。そして。
「……嫌ではありません。決して」
彼女の声はこの深閑とした空気の中でさえ消えてしまいそうなほど小さかった。だが、声はどんなに儚げでも……。決して彼女は鬼道から瞳を逸らさなかった。
「……!」
じわりとした温かさが胸を侵す。胸の内に込み上げる衝動を抑えて鬼道は息を吐いた。緊張がほどけ、そこには安堵が滲んでいた。
彼女の言葉は嘘ではない。毅然とした瞳にも小さくも響いた彼女の声にも真実を確信させるだけの説得力があった。決して、と結んだ彼女の言葉にも……。鬼道に何かを伝えようとする意図が感じられた。その意図までもは明確に汲み取れなかったが。
お前の心に触れたい、お前の心からの言葉がほしい。だからこそ、この曖昧過ぎる距離を埋められたら。
鬼道は自ら歩み出て、より彼女との距離を詰める。急な接近には驚いたようだったが、やはり鬼道を見上げているだけで距離を置こうとはしなかった。鬼道は彼女に耳を寄せ低く囁きかける。
「その言葉が偽りじゃないならあの場所に来い。今日の放課後、練習が終わったらだ」
命令に等しい言葉、あまり強すぎれば彼女を萎縮させてしまうかもしれない。だがこのくらい言っておかなければ、彼女はまたあの部屋に来ないだろう。