第2章 第二話
たとえ、恋の気持ちは伝えられなくとも……。鬼道の言葉にはそれ以上の、彼女への想いに対するが至誠が尽くされていた。ゴーグル越しの眼差しがどれだけ想いの丈を語れていて、彼女がそれを感じ取ってくれているかは分からない。
それでも分かってほしかった。お前が来ることを願い、俺が待っていたことを。先日俺が語り掛けた言葉は一つたりとて嘘は無い。
「俺は望んでいないことを願ったりはしない」
低く一言一言を噛んで含めるように吐く鬼道の声には息を呑む。夜の海のような眼に波紋が広がる。その瞳の色を注意深く観察しながら鬼道はゴーグルの奥で目を細めた。
そして、が部屋を訪れない理由がただの遠慮だというのなら。そんなものは言い訳にさせない。あの日の何物にも代えがたい時間を再現できるなら、俺はこの機会を逃すつもりはない。
鬼道の腕がぐっとの腕を引き、彼女の身体を自分の方へと寄せた。体が少し触れ合ったが彼女は逃れようとはしない。嫌悪を滲ませることもない。……ならば。
心を図りながら判断を下す。夢ではない、ここに実在する彼女をつかみ取るため、最低限の線を引きながらも鬼道は領域を侵して深く踏み込む。
「お前は、俺たちの練習を見て自らの練習に役立てたいんだろう? 差し出されたものは掴めばいい」
もっともらしい言葉を説きながら鬼道は、抱き寄せるのも容易いほど近くに寄せた彼女の瞳を慎重に覗き込む。
揺蕩う彼女の瞳は鬼道を見つめ、彼には図り切れない感情を滲ませている。その真意を問いたくて、彼女の気持ちを試すために鬼道はゆっくりと口を開く。
「それとも、俺の所へ来るのは……嫌か?」
彼女の瞳が一際大きく揺れる。それと共に唇が震えるのがつぶさに見えた。
狡い聞き方をした自覚はあった。策略的に会話を進めながら鬼道は審判を待つ。