第2章 第二話
そう思ったのが早いか、それとも彼の手が枷を逃れて無意識のうちに動いたのが先かは分からない。振り返った彼女の眼差しが驚きを露わに見開かれる。
鬼道の手は間違いなく、彼女の右手首を掴んでいた。
「……」
お互いの息遣いが静寂に包まれた廊下に存在する。交わった二人の視線はどちらも零れそうな感情をその眼に湛えていた。沈黙の中、鬼道もも何も言わず、ただお互いを見つめて動かなかった。
「なぜ、あの場所へ来ない……?」
沈黙を破ったのは鬼道の声だった。低く呟かれた声は確かに落ち着きを払っている。しかし、微かな震えを隠しきれてはいなかった。彼の眉間に皺が刻まれる。
平然を装いたいと思いながらも、痛みを覆いきれない表情で鬼道はに問いかける。
「扉の開け方が分からないわけじゃないだろう」
「……」
鬼道の重々しい言葉が空間に響く。彼女は切実な鬼道の表情と眼差しに目に見えて狼狽えていた。彼女の左手がそっと口元を隠して俯く。
が浮かべているのは困惑と呼ぶべきか……、彼女の呼吸のリズムは明らかに乱れていた。極度の緊張を露わに彼女は言葉を紡ぐ。
「あれは……、社交辞令だったのでは」
社交辞令? 思いにもよらなかった彼女の言葉に彼女の手首を握る力が強まる。
「社交辞令だと……? まさか」
あまりにも想定外だった彼女の言葉に鬼道も動揺を隠せなかった。呆気にとられ言葉を失う。ままならなさに、思わず笑ってしまいそうにすらなる。
……まさか、そんなふうに思われていたとはな。俺の心はその程度に解釈されていたのか。
胸中にある、心を埋め尽くしてしまうほどの想いをここで明かすわけにはいかない。鬼道には立場があり責任があり、そこには恋心は要されない。
だが、自分が掛けた言葉が社交辞令だなどと……、馬鹿げた勘違いをされているのには我慢がならなかった。
「どうして俺がそんなことを言わなければならない」