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鬼道有人の初恋

第2章 第二話




 日を追えば追うほど、彼女のことは細事の一言で片づけられなくなり始めた。

 ひと気のない通路に鬼道の足音だけが響いている。彼は重しを乗せられたような胸苦しさを抱きながら教室へと向かっていた。人目を避け、この遠回りでもある通路を選んだのは余裕のない自分自身を誰かの目に晒さないためだった。

 このところ鬼道の心は、とても穏やかだとは言えない。

 ふとした瞬間に、のことが頭に浮かぶ。授業の合間、サッカー部の練習の休憩中。家に帰ってからのデータ整理の最中や食事や入浴、さらには眠りに落ちる間際にまで彼女の存在が心に憑りついて離れない。

 ……由々しき事態だ。あの日から一目と見れていないというのに、の存在はいつしか鬼道の心にあまりにも深く根を張っていた。

 ――――とはいえ、俺に何ができる?

 求めたところで彼女が俺のところに来てくれるわけではない。得られないものを願うのは不毛だ。

 そう言い聞かせる鬼道のもとに機会は再び訪れた。

 廊下の角を曲がった瞬間、目の前の人影に気が付いて鬼道は反射的に目をやった。その生徒は鬼道からまだ随分と遠くにいたが、彼の目が見極めるには十分な距離。

「……っ」

 まず彼の瞳に映ったのは揺れる黒髪であった。一瞬で膨れ上がった期待感に、薄く開いた唇から息が零れる。鬼道はまじまじとその生徒を見つめた。

 絹のように艶めく黒髪は俯いた彼女の顔を暗く覆う。こんな人気の失せた廊下だというのに、周囲の視線を避けようと小さく肩を丸める。その仕草は紛れもなく彼女の、夢に見るほど想い募らせたのものだった。

 彼女を瞳に捉えた瞬間、鬼道の胸の鼓動は跳ね上がる。落ち着けと自分に言い聞かせながら、彼は無意識のうちに堪えていた息を吐いた。
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