第2章 第二話
との関わりは鬼道に何も意味をもたらさない。サッカーにも勉学にも……、鬼道財閥の跡取りとして歩む華々しい人生の道に彼女の存在は必要ない。……誰もがそう判断するはずだ。
ならば、現状を打開する必要は欠片もない。意味のないことに割く時間は鬼道の中に一秒たりとも存在しないのだ。特に、鬼道が彼女に対しすべきことは一つも。
無味乾燥な景色の中、鬼道はちらとベンチの空いたスペースに目をやる。あの日、はここに座って鬼道の話を聞いていた。緊張に身体を強張らせながらも、彼女は鬼道の言葉に確かに微笑み、あまつさえ可憐な瞳で彼を見つめていた。
その瞬間の彼女の姿を鬼道は完璧に思い出せる。彼女の声……“鬼道さん“と囁くように呼んだの声には紛れもない親愛を感じた。
「……」
意図せず彼女の名前が口から零れ出る。それは彼にとって実に女々しく不本意なことだ。
だが目を背けていられるほど、既に彼女の存在は小さな事柄ではなかった。思い出すたびに想いは強さを増していく。忘れるべきだと鬼道が己に言い聞かせるたび、いっそう心は彼女の存在を鮮やかに思い起こさせた。
いつしか簡単に思い描ける。衝撃的な美しさで焼き付いた彼女の走り、初めて心を見せてくれたときの花開くような微笑み。そして夜の海のような色をした眼に浮かべた、木漏れ日に似たまたたき……。
不必要な望みだ。分かっている、分かっていながら……やはり、彼女にここへ来てほしいと願ってしまう。
時間だけが勝手に過ぎていく。鬼道の領域であるこの部屋は、あの日から常に精彩を欠く。鬱屈と淀んで彼の瞳に映っていた。