第2章 第二話
両肘を膝に付き、彼は組んだ拳を額に押し当てる。朝と夜を繰り返すにつれ、まるで砂時計のように。焦燥感と不安に似た感覚が時間と共に心の中に積もっていく。鬼道はあの日の記憶を何度も辿って自分の発言に落ち度がなかったかを確かめる。
俺の申し出は迷惑だったのか、それともあの日の俺の強引さが彼女を怖がらせてしまったのか。彼女の言葉や表情を思い返し、頭の中でリプレイしながら心を探る。……あるいは俺の立場のせいか。
彼自身にそう思わせるほど、この学園の中において鬼道の存在は圧倒的だ。帝国学園で鬼道の名を知らない者はおらず彼の存在が注目を集める。常に光が照らす場所に彼は立ち続けていた。
対しては、強い光によって生み出された影の中に佇んでいるような少女。俯いた顔を黒髪で隠し、華奢な肩を丸めては息までひそめようとする彼女のことだ。
もしかすると鬼道との接触を望んでいないのかもしれない。先日の邂逅だって彼女は疎ましいと……。いいや、あるいは不愉快だと感じていたのかもしれない。
関わりたくないと判断されたのか。避けられている可能性すら思い至って鬼道は深く眉間に皺を刻む。
考えたくもない想像が日に日に鬼道の頭の中を侵食していた。まるで毒が全身に回るかのように鬼道を蝕む。
こんな細事にすぎないことで彼のサッカーや学業に支障が出るわけではない。だが……、メンタル面には少なからず彼女のことは影を落としていた。
万全のコンディションを保てないのは、一流のプレイヤーにはあってはならないことだ。せめて白黒はっきりさせたい。彼女を問いただせば、この暗澹たる気持ちは消え失せるだろうか。俺が、を呼び出せば……。
「……ふ」
安直な己の思考に呆れかえりながら鬼道は重々しくため息をついた。彼女をここへ強引に呼びつけて何になる。俺はそんなことを願える立場でもないというのに。……いや、違うな。そもそも前提がおかしい。
唇を噛み、ゴーグルの奥で固く目を瞑る。彼女にここに来てほしいと願うことがまず間違っているのだ。責任や使命を置いて何かにかまけるなど……。そんな鬼道の愚行を誰も許しはしないだろう。