第2章 第二話
あれから、彼女は一度たりともこの部屋に姿を見せなかった。
鬼道有人がと初めて言葉を交わしてから二週間の時が過ぎた。彼女と語らい、鬼道のみが知る場所を明け渡したあの日。忘れようもない出来事がきっと、自身の今に何らかの変化を生むものだと鬼道は考えていた。
眼前の扉は固く閉ざされている。まるで鬼道のささやかな期待など一蹴するかの如くわずかも間隙を開けない。ゴーグル越しに冷えた鉄の扉を睨みつけた。だが、いくらそうしていても何一つとして現実は変わらない。
そう、鬼道の予想とは裏腹に、あの日から鬼道の生活は変わらなかったのだ。は一度としてこの部屋を訪れなかった。
始めはすれ違っているだけかもしれないと考えた。
鬼道自身も忙しい身だ、サッカーに勉学に他校の視察に赴くこともある。この部屋に四六時中こもっているわけでもない。彼女が訪れたとき、たまたま自分が不在だっただけ……。そう信じていたかった。
しかしながら……、そうではないことは明白だった。
扉のセキュリティログは冷たく現実を突きつける。連なったアクセス記録はすべて自分の身に覚えがあるものだった。理解するには十分すぎる記録だった。
彼女はこの部屋に入るのはおろか、鬼道が教えた番号を入力してみることすらしていないのだ。
静寂の佇む部屋で、鬼道はベンチに腰掛けて階下を眺める。眼下に広がるのは誰もいないサッカーグラウンド。試合中には熱気の立ち込めるピッチは、スタジアムの投光器の白けた光のせいでやけに色褪せて見えた。
ゴーグルの奥で数度、彼は重く瞬きを繰り返す。侘しい光景に胸の中の寂蒔たる思いが募っていく。
――――いつでも来ていいと、そういったはずだが。