第3章 Lazy Ex
俺も何度か連れて来られたことがある居酒屋。
ここのクロワッサンの生地のピザは彼女のお気に入りだ。
本人がそう言ったわけではないが絶対、一番最初に頼んでる。
俺がここの店員なら勝手にクロワッサンピザヤニカスと心のなかで呼ぶだろう。
「着いたー。ここなら安心」と意気揚々とドアを開けるリカ。
だが、店員が出迎えた瞬間、申し訳なさそうに手を合わせた。
「おねえさーん、ごめんなさいー」
「え? なに?」
「うち、禁煙になっちゃって。
喫煙所外に作ったからそこでしかタバコ吸えなくて」
店の奥からも店長が顔を出す。
「姉ちゃん悪いなー。ほんと、早く伝えたかったんだけど」
リカの愛煙癖、通い慣れた居酒屋の面々にも完璧に伝わっている。
金曜の夜、割と席が埋まってる居酒屋。それなのに入り口で店員総動員で謝罪。
ちょっと引くレベルだ。
リカの顔が引きつっている。
気まずい空気。笑顔になれ、笑うしかない。
何のために俺は外面作ってきたんだよ、こういう時のためだ。
できるだけ、リカの絶望した顔を見せないように一歩前に出る。
「このご時世、そうですよね。
お忙しいのにこんなにしてもらってありがとうございます」
それを聞いていた俺の後ろに隠したはずのリカは顔を出して尋ねた。
「テ、テイクアウトできます?」
リカの即答に、店長が「分かるよ」と笑う。
「時間かかっていいなら」
「いくらでも待ちます、私、強いんで」
迷いなくテイクアウトを選んだリカを見て、俺は小さくため息をついた。
何に強いのか、待ってる間に何と戦おうとしてるのだろうか。
ニコチン欲に対しては最弱のくせに。