第3章 Lazy Ex
「飲み会つぶれたタイミング、良かったね。
早く帰る日ってお腹空くから助かった」
食事に行く気でいるようだった。もちろんそのつもりで誘った。
でもタイミングがいいわけではない。
月末の、彼女の会社の残業時間調整の期間狙って連絡をした。
残業過多の彼女が残業も休日出勤も禁止されるのを知っている。
付き合ってる時もそうだったから。
それも金曜日。
これが偶然だったら本当にタイミング良すぎだろ。
「……ま、お腹減ったしどっか行こっか。
ここらへん、全部禁煙か、紙タバコダメなんだよね」
「だから、電子……」
「いや、私には合わないから」
言うまでもない、ということなのだろうか
提案する前に投げつけられる返答。
「あれさ、ポップコーンの味がして気持ち悪いし。
タバコ名乗んなって思ってるから」
外のリカは家より少しだけより口が悪く、饒舌だ。
家では脱力感しかないけれど、
外では少し気が張るのか、それとも気分が良くなるのか。
主張が増える。
たぶん、外面のスイッチが入っている。
さっきの会社の上司と軽口を叩き合っていた時の、
社会人としてのリカの延長線。
家に帰ればそのスイッチはあっさり切れて、
またあの無感情で省エネな、俺の知っているリカに戻るんだろう。
その「外の顔」をほんの少し見せられていることが、
なんだか無性に面白くなくて、俺は雑に返した。
「……そうですか」
「ほんとだよ。吸うのは構わないけどPRは禁止。
たまにいる喫煙所の電子タバコ販売員さんの話で十分知ってる」
提案する前に容赦なく切り捨てられ、反論の余地すら与えられない。
外のスイッチが入ったままのこいつは、いつもより少しだけ手強い。