第13章 お下がり
秋の半ば。スヴェトザールがいつものように執務室で昼食を食べながら仕事をしていると、執事長が訪ねてきた。
「旦那様。お取り込み中失礼いたします。奥様の部屋の御品について女中頭から報告がありました。お伝えしてもよろしいでしょうか」
「言ってくれ」
少し緊張した様子の執事長を見て、スヴェトザールが昼食のパンと万年筆から手を離した。
「本日の午前中、掃除のメイドが奥様の衣類を陰干ししようと衣装棚を確認したところ……何点かの服や小物類に虫食いが見つかったとのことです」
カビや害虫を防ぐために何年も管理を続けていたが、とうとう発生してしまった。
スヴェトザールは無意識に俯いた。
「特に毛皮製品に被害が集中していて……」
「……どの程度だ。修繕はできそうか?」
「修繕できるものもありますが、全てではありません。私が見た限りでは少なくとも3点は穴がいくつも空いていました」
スヴェトザールから視線を外さぬまま、執事長が重たげな口調で続ける。
「このまま保管を続けるより、処分した方がよいのではないかと思います」
「…………そうか」
少しの間、スヴェトザールは黙り込む。視線は机の上の妻の肖像画に向けられていた。
返事があるまで執事長は静かに佇み続ける。
やがてスヴェトザールが視線を執事長に戻し、ようやく指示を送った。
「……その3点を、一度ここへ持ってきてくれないか」
「かしこまりました。只今お持ちします」
そう言って出て行った数分後、執事長が3つの箱を抱えて戻ってきた。
「こちらでございます。今すぐ確認されますか?」
「ああ」
室内の応接テーブルに箱を並べて置かせ、スヴェトザールは中身を取り出して広げる。
ロングケープと襟巻きとマフだった。どれも見覚えがある。妻が気に入っていたものだ。
スヴェトザールは生地や毛並みに目を凝らし、穴を一つ一つ確認していく。
たしかに穴は多い。干からびたような虫の脱皮殻もところどころに貼り付いている。ただ局所的で、傷みのあるところとないところがはっきりと分かれているようだった。
「……虫食いのない部分は、まだ使えそうだ」
言いながら、そっと衣類を箱に戻す。
「これを仕立て直すことはできると思うか?」