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愛しのサプフィール

第12章 冬毛


スヴェトザールを見て鼻を鳴らす馬。首を伸ばして顔を近づけようとする馬。耳だけをこちらに向けている馬。馬房の壁に尻を擦りつけている馬。
たくさんの大きな馬に囲まれている。サプフィールは好奇心と畏れを感じながらスヴェトザールに付いていく。
やがて一番奥の、他よりも少し広く作られた馬房の前でスヴェトザールが立ち止まった。
中には灰色の毛並みに濃淡の斑が散った馬がいて、スヴェトザールを見るや耳をピンと立てて近寄る。
馬栓棒越しに首を伸ばし、スヴェトザールの肩に鼻先を押しつけた。
「サプフィール、こちらが私の愛馬です。名前はヴェスニャクといいます」
「ヴェスニャク……?」
「こちらの方言で、春に吹く風という意味ですね」
言いながら、愛馬の首を撫でる。サプフィールはスヴェトザールの指が厚い毛に埋まるのを見て、ソワソワと所在なく手袋を弄る。
「私も撫でて……いいですか?」
おずおずと訊くと、スヴェトザールは嬉しそうに自分の立つ位置を少し空けた。
「もちろん。まずは挨拶からしましょうか」
「ご……ごきげんよう」
「手袋失礼しますね」
ヴェスニャクの様子を窺いながら会釈するサプフィールの手を取り、スヴェトザールが手袋を外す。
そしてそのまま握りこぶしを作らせ、ヴェスニャクが気付く位置までゆっくりと差し出した。
「わ……」
馬の鼻息がふんふんとサプフィールの手にかかる。柔らかそうな口元からは温かな湿気を感じた。
「これ、いま何してるんですか?」
「匂いを嗅がせて、あなたのことを確認させています。まだこちらに馴れていない馬との挨拶でよくこうしています」
「犬と仲良くなる手順と似てますね……」
ヴェスニャクの鼻先の毛と息のくすぐったさにサプフィールが肩を竦めていると、やがて鼻先を手から離して近くの飼葉桶に顔を突っ込んだ。
「もう大丈夫そうですね。首の辺りから触ってみましょう」
手本としてスヴェトザールが飼葉を食んでいるヴェスニャクの首元を撫で、それと同じようにサプフィールが近くに手を伸ばす。
指先に少しゴワっとした長い毛が触れる。毛流れに沿って撫でると、さらりと硬い感触があった。
スヴェトザールの手つきを見ると、慣れた様子で掻くように密な下毛に指を潜らせている。
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