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愛しのサプフィール

第12章 冬毛


翌日の午後。雪の退けられた道を歩きながら、サプフィールはスヴェトザールに連れられて敷地内の厩舎に向かっていた。
乾いた冷気は突き刺さるような鋭さで、息を吸うたびに鼻や喉がきゅっと縮まるような感覚がする。
サプフィールは襟巻きに鼻を埋めるようにして、なるべく浅い呼吸をしながら進む。
厩舎は屋敷から多少離された位置に建てられている。遠目に大きくて横長の、雪の積もった低い煉瓦造りの建物が見える。
歩いていく内に、嗅ぎ慣れない匂いが冷気に混じり始めた。初めは土や乾草、藁の匂いがして、そこに少しずつ獣臭が増えていく。
去年の夏頃に領内の視察で連れて行ってもらった牧場の匂いに似ているものの、それより少し控えめに感じた。
やがて厩舎との距離がどんどん縮まり、馬の蹄の音やブルルと鼻を鳴らす音も聴こえてきた。
「馬、いますね……」
まだ姿は見えないものの、すぐそこに馬の存在を感じたサプフィールが少し歩調を早めながらスヴェトザールを見上げる。
木戸の前に立ったところで、スヴェトザールがサプフィールに目線を合わせるように少し屈む。
「入る前に注意事項です。馬は臆病な生き物なので、些細なことで驚いて急に動いたり、蹴ったりすることがあります。ですのでここからは走ったり大声を出したりしてはいけません。それから、馬の後ろには絶対に立たないように」
「は……はい」
「では、開けますよ」
大きな木戸を開けると、外とは違う生暖かい空気が頬に触れた。外は凍えるほど寒いのに、厩舎の中は少しむっとした暖かさになっている。
左右には馬房が並び、物音に気付いた馬たちが次々と首を巡らせた。
「わぁ……」
スヴェトザールが木戸を静かに閉める横で、サプフィールが囁くような声を漏らす。
何頭かが馬栓棒越しに2人をジロジロと見ていた。
「奥の方に私の愛馬がいます」
そっと手を引かれ、サプフィールはおそるおそる通路を歩く。通路の幅は十分に広いものの、両側から馬に挟まれている気分だった。
サプフィールは締め固められた土を踏みながら、通り過ぎざまに左右の馬をキョロキョロと見る。
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