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愛しのサプフィール

第11章 馬


「あれ……?」
覗き込むと、道端に咲いたタンポポを食べているようだった。
「こら、動け。動け……っ」
トレーネスがふくらはぎで発進の合図を送るも、馬は気にせず草を食んでいる。
馬に慣れていない人間が乗っているのをいいことに、ナメた態度に出ているようだ。
「お、お父様ぁ……」
トレーネスが困り果ててスヴェトザールに振り返る。スヴェトザールは引き綱を緩く持ったまま、トレーネスをまっすぐに見つめた。
「頭を上げさせて、もう一度合図を送りなさい」
指示されるままトレーネスは手綱を少し持ち上げるようにして頭を上げさせ、脚で合図を送る。
「全然動かないです……」
「諦めるな。お前が許せば、次からも合図を無視していいと覚えるぞ」
自分で何とかしてみせろ、というスヴェトザールの口調にトレーネスは涙ぐみながら再度馬の頭を上げさせ、いつもよりしっかりと合図を送る。
すると馬は今度こそタンポポを食べるのを中断し、また道なりに歩き出した。
「よ、よかった……言うこと聞いてくれました」
「上出来だ」
ふ、と微笑みながらスヴェトザールは息子を褒める。
「……乗馬の授業は好きか?」
「はい。すごく高くて怖いけど……とても楽しいです」
「そうか。分からないことや困ったことがあったらいつでも訊きなさい。私に出来ることなら何でもしよう」
父がいつもより積極的に話し掛けてくれている。トレーネスはそのことに気付き、思わず口元を緩める。
「お父様も……乗馬の授業好きでしたか?」
「……最初は少し嫌だった。上手く乗りこなせるようになるまで結構時間が掛かったし」
それを聞いて、トレーネスは少し目を丸くした。
「好きじゃなかったんですか?」
「ああ。習いたての頃は筋肉痛や臀部と内股の擦り切れが酷くてな。皮膚が剥けて痛かった……お前は大丈夫か?」
「大丈夫です! たしかに痛みますけど……毎晩ソーニャが寝る前に薬を塗ってくれています」
そう言って嬉しそうに笑う。
慣れるまでの辛抱だと言われ我慢していた傷も、父と同じ道を辿っているのだと思うと何だかたまらない気持ちになった。









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