第11章 馬
「……一旦止めるか?」
馬にしがみつくような体勢で狼狽えている息子を見てスヴェトザールが馬術師範に聞くが、師範は首を横に振った。
「坊ちゃん、馬ではなく前の景色を見てください」
不安定な馬上で怯えるトレーネスに師範がそう呼びかける。
トレーネスはそれに従おうと、グラグラと揺れつつも姿勢を元に戻そうとした。
「こ……こう?」
「そうです。そのまま肩の力も抜いて」
身体を起こしたものの、落馬するのが怖くて手綱を握る手に力がこもる。
「手綱を引かないように。馬は私が見ていますので、ひとまず座ることに集中してください」
「……わかった」
銜を引っ張らないよう、手綱を持つ手を緩めながらトレーネスが返事をする。
揺れる身体を馬の動くリズムに合わせようとするも、過剰に臀部が跳ねるせいで安定しない。
「バウンドしているな」
「スヴェトザール様も最初はそうでした」
「そうか」
馬の上で跳ね回る息子を見ながら呟くと、馬術師範にそう返されスヴェトザールはそのまま頷く。
「慣れてくれば、スヴェトザール様のように乗りこなされるようになりますよ」
「ああ。頼んだ」
それから数十分ほど、休憩を挟みながら速歩の発進と停止を練習した。
「トレーネス、最後に邸宅の周りを一周してみないか」
「えっ、お父様とですか?」
「そうだ。……疲れたなら断ってもいい」
「疲れてないです。行きたいです!」
そうして、トレーネスはスヴェトザールと共に練習用の馬場を出て、邸宅の周囲を通る道へ向かった。
トレーネスの馬の引き綱をスヴェトザールが持ち、横並びの常歩で進んでいく。
「なんか……練習のときより揺れますね」
「足元が悪いからな。バランスを崩さないように気を付けなさい」
整えられた馬場とは違い、道に多少の凸凹がある。
「尖った石を踏めば蹄を傷めることもあるし、穴や泥濘に足を取られれば転倒することもある。馬にとって良くない物や場所がないか、早めに気付いて避けさせるように」
「はい、気を付けます」
返事をすると、トレーネスの馬がふと道の脇に逸れ、頭を下げる。