第11章 馬
4月下旬。ようやく雪の解け残りがなくなってきた頃、トレーネスは乗馬の授業に取り組んでいた。
乗り始めてから数日、まずは馬上での姿勢や手綱の扱い、常歩での発進と停止を一通り教わり、少しずつ馬上での動きにも慣れてきている。
今日も授業を受けに敷地内の練習場へ向かうと、そこには馬術師範と馬丁の他にスヴェトザールもいた。
「お父様……?」
愛馬に乗り、軽く練習場を走らせている。
すぐにトレーネスに気付いて歩調を緩めながら近付いてきた。
「来たか。今日は私も一緒だが、いいか?」
「も、もちろんです……!」
トレーネスは嬉しさのあまり馬へ駆け寄りかけ、馬術師範に窘められて慌てて歩調を緩めた。
それから馬丁に手伝ってもらいながら馬に跨る。
鐙の長さを調整し、トレーネスが手綱を握ったのを確認すると馬丁は引き綱を引いてスヴェトザールの方へ馬を歩かせた。
「まだ慣れてないな。もう少し力を抜くといい」
「えっ、あ……えと」
スヴェトザールに言われたものの、何を指摘されているのか分からずにトレーネスが狼狽える。
「坊ちゃん、背筋を反らせすぎです。もう少し肩を楽にして、手綱も強く握りすぎないように」
「う、うん……」
馬術師範に言われ、ぎこちなく姿勢を正した。
それからは前日の復習として、脚で合図を送りながら常歩で馬を動かす。
前進と停止、左右の方向転換などを辿々しくこなしたトレーネスは、この日初めて速歩を習うことになった。
トレーネスの馬に繋がった調馬索を持ち、馬術師範が言う。
「では坊ちゃん。まずは両脚で馬の腹を軽く挟んでみてください。もし反応がなければ少し強くしていいです」
「こう?」
トレーネスがおそるおそる脚を締め、馬の腹をそっと挟む。
馬も子どもの力で慎重にじわっと圧迫されたことに気付いたのか、数秒の間を置いてからようやく常歩から速歩へ移った。
「わっ……!」
トントン、トントンと二拍子のテンポで進み始めた馬の上でトレーネスが少し慌てる。
馬はそんなトレーネスのことなど気にもせず、調馬索を持つ師範を中心に円を描くように速度を維持している。
「下を見ると姿勢が崩れます。目線を上に上げてください」
「で、でも……」
急に速度が上がった怖さから、つい足元へ目が向いてしまう。そのせいで背中が丸まり、膝や手綱に余計な力が入っていた。
