• テキストサイズ

愛しのサプフィール

第9章 温室


2月上旬。外では絶え間なく雪が降り続いている。
家庭教師との授業を終えたトレーネスは、ソーニャと共に温室に来ていた。
「トレーネス様、あちらに一匹いますよ」
「ほんと?」
ソーニャが指差した方を覗き込む。観葉植物や果樹が植えられている陰に猫が丸まっていた。
「可愛いね」
屋敷内のネズミ捕りとして飼われている猫たちは、冬はもっぱら温室に入り浸っていた。
密度の高い冬毛を寝転びながら手入れしている様子を眺める。
気まぐれに近寄ってくることもあったが今回はトレーネスの目を一度じっと見つめ返しただけで、興味のある素振りすらない。
「……シャリクはお庭かな?」
猫から視線を外し、トレーネスは雪のこびりついたガラスの壁まで近寄って庭を眺める。
薄暗い灰色と白の景色は静かで、動いているのは空から落ちてくる雪だけだ。
寒さに強いコーカシアン・シェパードのことだから、今見ているどこかの雪の下で昼寝をしているかもしれない。
窓のすぐ側から冷気を感じ、トレーネスはソーニャのいる中央のティーテーブルの方へ退避する。
椅子に座りつつ、ソーニャにも座るよう促した。
「今日の授業は計算のお勉強だったよ。ちょっとずつ難しいのが増えてきてヤダ」
床につかない脚を揺らしながら、トレーネスが不満げにそう漏らす。
「外には全然出られないし、苦手なこと頑張らなきゃいけないし……最近あんまり楽しくないかも」
ソーニャは穏やかな顔で相槌を打つ。
嫌だ嫌だと言いながらもトレーネスがいつも真面目に授業を受けていることをソーニャは知っていた。
昔から自分が傍にいない時間をどう過ごしたか、よく話して聞かせてくれていたが年を重ねるごとに話すことも増え、そのたびに成長を感じる。
「でもさ、春になったら乗馬も教えてくれるんだって。上手く乗れるようになったらソーニャも後ろに乗せてあげるね」
「まあ、光栄でございます。どうかお怪我などなさらぬよう気を付けてお臨みくださいませ」
「うん。それに……いつかお父様のお仕事にもついていきたいな」
馬に乗って領内の見回りに出ていく父親をたまに見送っていた。
馬を操り颯爽と駆けていくその背中に憧れを抱いていることもあって、トレーネスは夕食までの時間、待ち遠しそうに乗馬の話を続けた。
/ 61ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp