第8章 夏至
むしろ、自分が妻の気持ちに寄り添えなかったことの方がよほど問題がある。
従者から聞き、サプフィールが自分を好いている可能性があることを知った今ですら彼女にどう接すればいいのか、未だに分からない。
「……」
所在なく、目の前の景色を眺める。
大きな焚き火の前で若い男女が踊っているのが見えた。
恋人か、あるいは夫婦か。手を取り合って、互いだけを見つめている。
サプフィールもその2人を見ているようだった。
「……夏至祭に来たことですし、何かしたいことはありますか?」
自分と一緒に来たいと言っていたし、何か目的があったはずだ。訊くと、サプフィールは小さく首を横に振った。
「本当にただ……一緒に来たかっただけなんです。仕事や社交以外で、あなたと……普通の夫婦のように過ごしたかった……」
ぽつりぽつりと呟くように言いながら、サプフィールがゆっくりと体を傾けてスヴェトザールの肩に頭を預ける。
「スヴェトザール様にとっての妻は……ただ家と領地を共に守る相手、なんでしょうけど」
寄りかかったまま言うサプフィールの声は震えていた。
また泣いている。
ハンカチを出そうとしたが、サプフィールの下にあるのを思い出して代わりのものを探す。
「そう思われても無理はありません。すみませんが、拭くものがないのでこれを」
クラバットを解いて手渡すと、サプフィールは少し躊躇ってから目元を拭った。
「申し訳ないのですが、私は貴方の言う「普通の夫婦」がどうあるべきものなのか……よく分かりません」
「……スヴェトザール様のご両親はどのような感じでしたか?」
「私の……」
サプフィールに言われ、スヴェトザールは思い返す。
18歳のときに他界してしまった父と母。2人はいつも口数が少なく、仕事で用があるとき以外はろくに目も合わせていなかった。
2人ともお互いに興味を持っていないようで、放置こそが気遣いであるかのように見えた記憶がある。
「なんというか……仲が悪いわけではなかった気がしますが、貴方の思う普通の夫婦ではなさそうです」