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愛しのサプフィール

第8章 夏至


6月下旬。サプフィールは昼食後の散歩で庭に出ていた。
「もうすぐ夏至祭だね」
番犬として飼われているコーカシアン・シェパードの腹をわしわしと両手で撫でながらサプフィールがソーニャに言う。
領都の近くで催される大きな祭りはコズロフ家も薪や酒の提供、警備の手配などの後援をしていた。
「行ってみたいな……スヴェトザール様は行かれるかな?」
「どうでしょう。今のところ、旦那様が祭りに出向くという話は出回ってないですね」
スヴェトザール本人が自主的に夏至祭に行く可能性はかなり低そうだ。
サプフィールは犬の腹毛に手のひらを埋めたまま、屋敷の執務室の窓に目を向けた。
「誘ってみたら、来てくださるかな……」
「いいですね。後で当日着ていくドレスも選びましょうか」
「うん。ソーニャも一緒に行こうね」
夜になり、夕食の席でスヴェトザールと会ったもののサプフィールは夏至祭の話を出すことができなかった。
食後のティータイムも、眠る直前も、サプフィールは夏至祭のことばかり考えていた。けれど、実際にそれを口にする勇気がどうしても出なかった。
「(忙しい中お誘いしたら……もし、それで私との予定を合わせるために無理をさせてしまったら……。それに、たくさんの領民のために頑張ってる人の時間を割いて私欲で連れ出すなんて……そんなこと、していいのかな)」
気軽に誘えばいいと思えば思うほど、そんな思考に陥っていく。
役目や生活に関係のない要求をすることが迷惑になるんじゃないかと、どんどん不安になる。
「考えすぎではありませんか?」
夏至祭の前日の朝。サプフィールがそのことについてソーニャに相談すると、そんな答えが返ってきた。
「…………うん」
髪の毛を梳かれながら、サプフィールがゆっくりと頷く。
「サプフィール様の悪い癖です。相手の立場を考えて気を遣われるのは大変素晴らしいことですが、そのせいでご自身のささやかな願いにフタをしてしまっています」
「ささやか、かな……」
滑らかな手つきでソーニャがサプフィールの髪を結っていく。
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