第6章 遠出
「……時期がよかったからです」
「時期、ですか?」
サプフィールが返すと、スヴェトザールは俯きがちに頷いた。
「貴方の父君から縁談の手紙をいただいたときは……ちょうど領主としての仕事に慣れてようやく落ち着いてきた頃です。それより前は、妻を迎え入れる余裕なんてとてもなかったので」
「た……大変だったんですね」
特別な理由は何もなかった。サプフィールはややがっかりしつつも、会話を続ける。
「ですが、同じ時期に私の家以外からも縁談を申し込む手紙は多かったのでは?」
「ええ。数件ほど、まだ断りの返事を送っていなかったものがあったので……その中から縁談先を選ぶことにしました。とりあえず最初に手に取った手紙の家の素性などを調べて、特に問題がなかったので承諾の返事を送りました。……貴方の家に」
スヴェトザールが淡々と言う。
それを聞いて、サプフィールは納得できたような、できなかったようなどっちつかずな気分になった。
「では……では、もし他の令嬢の家の手紙を先に手に取っていたら、今ここにいるのは……私ではなかったかもしれないんですね」
「先に確認した縁談に問題がなければ、そうなっていた可能性はあります」
「…………そう、ですか」
サプフィールはまた窓の外に視線を戻した。ガラスに映る自分の目が潤んでいて、無性に情けない。
馬車内が沈黙で満たされる。
馬の蹄の音と、車輪の音だけが箱馬車の外で鳴り続いていた。