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愛しのサプフィール

第6章 遠出


「ワインはいかがですか?」
盆にいくらかグラスを載せた公爵家の従僕がサプフィールにそう声をかける。
「あ、ど……どうも」
丁寧な所作で手渡される。
サプフィールはすることもないので、会場を眺めながらワインを飲むことにした。
渋い、苦い。サプフィールの舌はまだ酒の良さが理解できなかった。
早く飲み終わって果汁の飲み物で口直しがしたい。嫌な味を我慢して呷っていると、段々と顔が熱くなってきた。
「(歯茎がジクジクする〜……)」
口の中や耳の奥から心臓の音がする。
なんだか変だと思いながらも杯を空にし、さっさと立ち上がろうとする。しかし腰が上がらなかった。
「…………?」
コルセットのせいか。違う。脚に力が入らない。頭がグラグラする。視界もぼやけている。
ふとサプフィールは、両親が深酒をした夜のことを思い出した。父は気持ち悪そうな顔をしていて、母はそれを見て大爆笑した勢いで吐いていた。
2人ともフラフラとしていて歩くのもやっとで、使用人に抱えられながら寝室に運ばれていったのを覚えている。自分が今こうなってるのも酒のせいか。
サプフィールは立ち上がるのを諦めた。
「……」
ぼんやり舟を漕ぎながら隅っこで座り続ける。
すると、誰かが近寄ってくる気配がした。
「こんばんは、コズロフ伯爵夫人」
見慣れたクリーム色の髪の毛がサプフィールを見下ろす。
「ん〜……? ソーニャぁ……?」
「あら、なんて真っ赤な顔なのかしら」
「むにゃむにゃ言ってますわね」
他にも誰かいる。それにソーニャの声じゃない。
「ご機嫌、麗しゅう……」
顔を上げて挨拶するものの、相手の顔はよく見えなかった。
「ちょっと、お水を持ってきてくださる?」
「かしこまりました」
そんな会話が聞こえ、すぐに手に持っているグラスが取られ、別のグラスを握らされた。
「……?」
「水です。ゆっくり飲んでください」
「あ、ありがとうございます……」
言われた通りに水を口に含む。
やや冷たい水が火照った口内を潤し、少しだけ意識が明瞭になった。
「……サプフィール・コズロフです。すみません、今……上手く話せないかもです」
「酔ってしまっていますものね。大丈夫ですよ、そのままゆっくりなさって」
「はい……」
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