第6章 遠出
サプフィールはなるべく首から上を動かさないように気を付けながら、丁寧に髪を結うソーニャを鏡越しに見ていた。
束ねた髪は編んで円形に巻いてシニヨンにし、こめかみには細い巻き毛を一房ずつ残す。
全体の形を整え、それから小粒の宝石がついた銀の髪飾りをつけた。
「サプフィール様の瞳と同じ色ですね」
髪飾りと一揃えの耳飾りと首飾りもつけ、ソーニャも鏡の中のサプフィールと目を合わせる。
「サファイアかな。……綺麗」
「こちらのドレスも装飾品も、旦那様がサプフィール様に贈られたものです」
この半年の間に何度も、使用人たちがスヴェトザールからの贈り物だと言って持ってきていた。これもその内の一つだろう。
「ちゃんと似合ってる……?」
「ええ、とっても」
ソーニャが微笑んで答えた。
「旦那様もきっと喜んでくださいますよ」
「……うん」
贈り物を身につけたことに喜ぶスヴェトザールの姿をわずかに想像しながら、サプフィールは控えめに頷く。
それから化粧も済ませ、サプフィールはソーニャと化粧室から出た。
客用の居間には既に準備を終えたスヴェトザールがソファに座っていた。
「お待たせしました。もう会場に向かわれますか?」
「ええ。丁度いい頃合いです」
言いながら立ち上がる。
スヴェトザールは深い黒色の燕尾服に白いウェストコート、襟元には白い蝶ネクタイを着用していた。
艶々の黒髪もいつもよりカッチリと撫でつけられている。
「い、行きましょうか……」
サプフィールがスヴェトザールのそばへ歩み寄る。
するとスヴェトザールはそっとサプフィールの装飾品を覗き込み、それから自身の燕尾服の袖口についたカフリンクスを少し見つめた。
「……?」
「では、出ましょうか」
何事もなかったかのようにスヴェトザールは腕を下ろし、歩き出した。
客用の区画を出て、連れ立って通路を進む。
その際、サプフィールは先ほどスヴェトザールが見ていた袖口に目を向ける。袖口のカフリンクスには、サプフィールの装飾品と同じ青い宝石がはめ込まれているのが見えて、思わず後ろに控えているソーニャに振り返る。
ソーニャもサプフィールの視線の意図を理解していた。嬉しそうに笑顔で返している。
その横でドミトリーも頷いていた。